大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)738号 決定

抗告人

西村恭輔

右代理人弁護士

土門宏

相手方

大東京信用組合

右代表者代表理事

関水誠

東京地方裁判所昭和五五年(モ)第一八九八一号、昭和五六年(モ)第四一五七号文書提出命令申立事件(本案・同庁昭和五五年(ワ)第二九三六号債務不存在確認請求事件)について同裁判所が昭和六〇年一二月二日にした申立却下決定に対し抗告人から適法な即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。相手方は別紙提出文書目録記載の文書を提出せよ。」との裁判を求めるというにあり、抗告の理由は、別紙抗告の理由記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  抗告人の抗告理由一ないし八について

本件記録によれば、抗告人は原告抗告人、被告相手方間の東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第二九三六号債務不存在確認請求事件において、主位的に、抗告人の相手方に対する昭和五三年八月一一日付連帯保証契約に基づく三五〇〇万円及び昭和五四年六月二〇日付連帯保証契約に基づく四五〇〇万円の各保証債務の存在しないことの確認並びに相手方に対し抗告人所有の杉並区和泉二丁目四一四番地二家屋番号四一四番二の一の居宅につき東京法務局杉並出張所昭和五三年八月一四日受付第三三七二四号根抵当権設定登記の抹消登記手続をすることを求め、予備的に、相手方に対し六八〇〇万円及びこれに対する昭和五四年七月一八日から支払ずみまで年一割五分による金員を支払うことを求め、主位的請求の請求原因として、相手方は昭和五二年四月一三日から山王興業株式会社(旧商号 山王工業株式会社、以下「山王興業」という。)に対し継続して金員を貸付け、抗告人は山王興業の相手方に対する右債務を担保するため相手方代理人山口実との間において、昭和五三年八月一一日限度額を三五〇〇万円とする連帯保証契約を締結し、次いで昭和五四年六月二〇日右限度額を八四〇〇万円に増額する契約を締結し、また、昭和五三年八月一一日抗告人所有の前記建物について極度額三五〇〇万円の根抵当権を設定し、同年八月一四日東京法務局杉並出張所昭和五三年八月一四日受付第三三七二四号をもつて根抵当権設定登記を経由し、昭和五四年六月二九日右極度額を八四〇〇万円に増額する附記登記を経由したのであるが、山口実は相手方から金員を騙取するため実体のない山王興業名義で相手方から金員を借受けたものであるところ、抗告人に対しその事実を秘匿して欺罔し、抗告人をして前記のように人的及び物的担保を提供させたから、抗告人は相手方に対し昭和五五年二月一日到達の内容証明郵便による書面をもつて右連帯保証契約を取消した旨主張し、予備的請求の請求原因として、相手方の被用者山口実はその職務を行うについて故意に抗告人を欺罔し、抗告人に対し抗告人の相手方に対する保証債務額六八〇〇万円及びこれに対する年一割五分の割合による遅延損害金相当の損害を与えたので、相手方に対し民法七〇九条、七一五条により右損害の賠償を求める旨主張していること、これに対し、相手方は、抗告人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却するとの判決を求め、相手方の山王興業に対する貸付及び抗告人の山王興業に対する連帯保証が山口実の欺罔行為に基づくこと、抗告人と相手方間の連帯保証契約が有効に解除されたこと、相手方が民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償義務を負うことを、いずれも争つていること、抗告人は、本件において提出を求めている文書により相手方の山王興業に対する貸付全部について山口実が関与し、右貸付が山口実の欺罔行為によりされた事実ないし山口が抗告人を欺罔して山王興業の相手方に対する債務について連帯保証をさせた事実を立証しようとしていることが認められる。

抗告人は、本件において抗告人が提出を求めている貸出稟議書及びその付属書類は挙証者である抗告人と所持者である相手方との間の法律関係について作成された文書であるから民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当する旨主張するので、検討するに、同号後段にいう挙証者と文書の所持者との間の法律関係に付き作成された文書の中には、挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書だけではなく、その法律関係に関係のある事項を記載した文書も含まれるが、文書の所持者がもつぱら自己使用の目的で作成した内部的文書はこれに含まれないものと解すべきところ、抗告人が本件において提出を求めている貸出稟議書及びその付属書類は、相手方が主債務者山王興業の借入申込に対し貸付けをする際に相手方内部においてその適格性の存否を審査するために作成ないし徴収する文書であると認められるから、右各文書は同号後段の文書には該当しないものというべきである。もつとも、右付属書類の中に抗告人作成の担保提供承諾書、保証承諾書が含まれているとすれば、右文書は同号後段の文書に該当するが、本件本案訴訟においてその提出を命ずる必要性は認められない。

次に、抗告人は、抗告人が提出を求めている手形割引依頼書、割引依頼手形写、普通預金払戻請求書及び普通預金口座元帳は民事訴訟法三一二条三号前段及び後段の文書に該当する旨主張するので検討するに、同号前段にいう挙証者の利益の為に作成された文書とは、その内容からいつて挙証者の利益のため又は挙証者及び第三者の利益のために作成されたものと認めるべき文書をいうものと解すべきところ、抗告人が提出を求めている山王興業の手形割引依頼書及び割引依頼手形写は、相手方が山王興業の依頼により手形を割引く際にその適否を審査するため交付を受けるものであり、山王興業の普通預金払戻請求書は、相手方が山王興業に対し普通預金を払い戻す際に届出済印の押印等を確認するために交付を受けるものであり、相手方の普通預金口座元帳は、相手方が山王興業の預金の額等を把握するための資料として作成するものであると認められるから、これらの文書は、その内容からいつて抗告人の利益のため又は抗告人及び第三者の利益のため作成されたものと認めることはできず、同号前段の文書にあたらないものというべきである。また、これらの文書は、抗告人と相手方との間の法律関係それ自体を記載した文書でも、その法律関係に関係のある事項を記載した文書でもないから、同号後段の文書にも該当しないものというべきである。もつとも、相手方が山王興業の依頼により現実に割引いた手形の写は、抗告人の保証債務との関連において抗告人と相手方との間の法律関係に関する文書に該当するものと解する余地があるが、相手方が右のような手形の写を現に所持していることを認めるに足りる証拠がないのみならず、本件本案訴訟においてその提出を命ずる必要性は認められない。

なお、抗告人は、右各文書が主債務者である山王興業にとつて相手方との間で民事訴訟法三一二条三号前段及び後段の文書になるから、連帯保証人である抗告人にとつても同号前段及び後段の文書になる旨主張するが、主債務者に対する関係で同号前段又は後段の文書に該当するからといつて、直ちにその連帯保証人(挙証者)に対する関係で同号前段又は後段の文書となるものと解するのは相当でない。

次に、抗告人は、山王興業が相手方の組合員になつたことを示す文書は山王興業にとつて民事訴訟法三一二条三号前段及び後段の文書に該当するから、その連帯保証人である抗告人にとつても同号前段及び後段の文書に該当する旨主張するので検討するに、山王興業が相手方の組合員になつたことを示す文書は、挙証者である抗告人の利益の為めに作成されたものとは認められず、また、抗告人と相手方との間の法律関係に付き作成されたものということもできないから、同号前段又は後段の文書に該当しないものといわなければならない。抗告人は、右文書は主債務者である山王興業が相手方に対し同号前段及び後段により提出を求めうるものであるから、その連帯保証人である抗告人も山王興業の右権利を援用してその提出を求めうる旨主張するが、連帯保証人が主債務者の民事訴訟法三一二条三号に基づく権利を当然に援用しうる旨の規定はなく、同号の解釈はその文言にそつて行うのが相当であるから、抗告人の右主張は援用することができない。

2  そのほか、記録を精査しても、原決定を取消すに足りる違法の点は見当らない。

3  よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官川添萬夫 裁判官佐藤榮一 裁判官関野杜滋子)

抗告の理由

一 抗告人は、昭和五五年三月二五日相手方に対する抗告人の保証債務不存在確認(予備的に損害賠償請求)を求めて訴を提起した(東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第二、九三六号)。

訴の請求の趣旨は左の通りである。

一、主位的請求

1 原告の被告に対する昭和五三年八月一一日付連帯保証契約に基づく金三五〇〇万円の並びに同五四年六月二九日付連帯保証契約に基づく金四九〇〇万円の各保証債務は存在しないことを確認する。

2 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物に付、東京法務局杉並出張所同五三年八月一四日受付第三三七二四号による根抵当権設定登記(根抵当権者被告大東京信用組合・債務者訴外山王興業株式会社・根抵当権設定者原告西村恭輔)の抹消登記手続をせよ。

二、予備的請求

被告は原告に対し、金六八〇〇万円及びこれに対する同五四年七月一八日以降支払済まで年一割五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

二 民訴法における弁論主義は、裁判所は紛争当事者が判断を求めたことに付いてのみ判断をしそれ以外のことについては判断をしてはいけないことを意味する。

民訴法に於けるこの原則は、しかしながら、紛争判断の対象となる主張が一度裁判所に持ち出された後、判断資料となる証拠を裁判所がどの様に収集するかを規制する原則とは別個のものである。

弁論主義は私的自治の原則、証拠収集は公平の原則に由来するものだからである。

三 裁判所が証拠収集する為の制度は、裁判所は紛争当事者に予断を抱いてはいけないものであるから、紛争当事者に公平なものでなければならない。

立証責任制度は、立証活動の公平を紛争当事者に保つ為の制度の一つである。

立証活動の公平は立証責任制度で尽きるものでは無く、文書提出義務・証言義務も立証活動の公平の為の制度である。

四 紛争の対象が一度裁判所に持ち出された後は、国家は正義・真実を訴訟手続きを通して実現する責任があるので、紛争の当事者が裁判所の判断に関連があり且つ重要と考えられる証拠を自らの不利益を免ぬがれようとして湮滅し、裁判官の判断を誤らせるような事をしてはならないのである。

ここに民訴法上、一般人の証言義務、紛争当事者間の法律関係の為に作られた文章の提出義務(民訴法三一二条三号)の根拠がある。

原決定は、訴訟制度全体の中で文書提出命令がどのような背景の下に出来たものかを理解していないものである。

五 民訴法三一二条三号後段は、或る文書が「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタル」とき、紛争の一方の当事者が証拠として裁判所への提出を欲する場合、その所持者はその要求に応じなければならないとする。

対象となる文書が、主要事実・間接事実を問わずいずれか事実の立証に関係ある限り、裁判所に所持者は提出して判断の資料に供すべきであるとするのがこの規定の趣旨であつて、原決定のように同条三号の前段と後段を区別し各々別個の文書を対象としていると考えるのは誤りである。

(一) 同号前段の「文書ガ挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ」たるときというのは、同号後段の「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタルトキ」の一場合を意味する。

(二) では、紛争当事者の一方が相手方の所持する文書を紛争当事者間の法律関係の為に作成された文書だから裁判所に提出すべきだと主張しさえすれば裁判所はそのままその申立を認めなければならないかと言うと、それはそうではなく紛争解決に役立つ証拠であるか否かという観点より文書提出命令に対して歯止めが掛けられるのである。

(三) この歯止めは、原決定が言うように提出を求められている文書(貸出稟議書)が「被告が借入申込者に対し貸付をするにつき被告組合内部においてその適否を検討、審査する為に作成する文書」であるから、提出命令の対象にはならないとすべきではなく、文書の内容が紛争の対象になつている請求原因(本案との関連で言えば欺罔行為・不法行為=領得行為)と関連があるか(関連がなければそれを理由に却下すればよい)、関連があるとした場合請求原因の諾否判断に役立つ重要な文書であるか、という点より提出命令は判断されるべきである。

六 原決定は、提出を求められている文書を本案の請求原因との関連性、その重要性を考えることなく文書作成の動機のみを考えて民訴法三一二条三号の解釈をする過ちを犯している。

(一) 原決定が「被告の自己使用のために作成された内部的文書にすぎない」としている「貸付稟議書」は、本案で立証の対象となつている欺罔行為に付いて、裁判所の判断の重要な証拠(間接証拠)となるものである。

① 稟議書には、相手方の融資先である山王興業の実体、経営評価、過去の取引につき虚偽の、保証人たる申立人の保証意思、担保提供意思の確認について虚偽の、記載があるのである。そのことは、既に相手方より申立人が取得し甲号証として提出している稟議書に虚偽の事実が記載されていることより推測できるのである。

② 記載されている虚偽事実は、相手方従業員山口実が欺罔行為(主位的請求)或いは領得行為(予備的請求)を行うについてどの様な役割(間接事実)を果したかを知るうえで重要なものであり、裁判官の心証形成に大きな影響を与えるのであつて、立証活動の公平を図るために裁判所に提出されるべき文書(証拠)である。

(二) 原決定は、民訴法第三一二条三号前段につき「挙証者の法的地位を直接証明し、又は権利ないし権限を基礎づける目的で作成された」文書をいうとする。

本案の主位的請求における請求原因として申立人は詐欺による保証行為の取消を主張している。

本案との関係で「挙証者の法的地位を直接証明」するとは何を言うのか。

① 本案において、欺罔行為(直接事実)の立証をしようとする場合、欺罔行為(直接事実)の行なわれる場面のお膳立て(間接事実)にどのようなことが行なわれたかを先ず立証しないことには、いろいろのお膳立てをし、情況(舞台)を利用し人を騙す際、最後の止めとして行なわれる口頭での欺罔行為を立証できないのである。

貸金訴訟においては金員交付の事実と金銭交付の動機とを明確に区別し立証できるであろうが、欺罔行為の場合は欺罔行為と欺罔行為の為のお膳立てたる外部的徴表とは区別できないのである。

② 詐欺罪においては、欺罔意思の有無が欺罔者の内心にあり外部より窺い知ることができないゆえに、外部的徴表より欺罔意思を推測する外はなく、主要事実・間接事実と明確に分けて立証の対象にできないものである。

貸出稟議書、手形割引依頼書等は全て欺罔行為のお膳立てに使われている文書である。

原判決はここに思い至つていない。

(三) 原決定は、「挙証者の法的地位を直接証明し、又は権利ないし権限を基礎づける目的で作成されたもの」に限定して文書提出命令の許否を判断する。このことを本案との関係で言えば提出を求められている文書が申立人の欺罔行為を証明するのに直接的でなければならないということを意味していると思われるが、それは三一二条三号前段の「挙証者ノ利益ノ為」に作られた文書をいうのであり、同号後段は本案との関連性、重要性のある文書のことを「挙証者と文書所持者との法律関係に付作成せられた」と言つているのである。

① 仮に原決定の言うように文書が「挙証者の法的地位を直接証明」するものでなければならないとしても、請求原因の予備的請求との関連でいえば「預金払戻請求書」は、民訴法第三一二条三号前段の文書に当る。

申立人は相手方の従業員である山口実が主たる債務者山王興業の預金を引出(不法行為)費消したと主張しているのであるから、引出の事実は山口実の不法行為を直接立証するものだからである。

② 山王興業が相手方組合の組合員であることを示す文書は、原決定の考えに従つても民訴法第三一二条三号前段の文書に当る。

信用組合は組合員にしか融資してはならず、組合員以外に対する金員貸付は無効となるので主たる債務者が不存在であれば保証債務は成立し得ない。

従つて、山王興業が相手方の組合員であることを示す文書は主たる債務者にとつても保証人にとつても債務の存在を直接証明する文書である。

七 原決定は、「保証人であつても主たる債務者の有する訴訟手続上の権利を当然援用できるとする根拠」はないと言うが、公平の観点より当然のことであるから敢えて民法、民訴法に規定が置かれなかつたものであり、このことを見逃している点に於ても原決定は誤つている。

(一) 連帯保証人は、検索、催告の抗弁権を持たないことは民法四五四条の規定上明らかである。しかしその保証債務の内容は主たる債務者の債務と同一の内容を負担するに至るのである。

(二) 民法に規定はないが、保証人は主たる債務者の抗告権を援用できることは認められている。

主たる債務者の為に(保証)債務を負担する以上、債権者から見て主たる債務者と連帯保証人は債務履行確保の面から同一視されるので、連帯保証人が主たる債務者の時効、同時履行、相殺の抗弁を援用できなければ公平ではないからである。

① 主たる債務者が民訴法上文書提出命令の申立が出来るのであれば、保証人もその主張を援用できるのでなければ主たる債務者、保証人、債権者間に於て公平を欠くことになる。何故なら債務の履行は主たる債務者と同じに求められるが抗弁に付いて保証人が主たる債務者より保護が少なくなつているからである。

文書提出命令も同時履行の抗弁も同じく公平の観念に基づくものである。

② 保証人が主たる債務者の抗弁を援用することは紛争が裁判所に持ち出された場合訴訟手続の中で行なわれる。

主たる債務者の反対債権で保証人が相殺を主張する場合(民訴法一九九条二項)を考えれば明らかである。

③ 保証人が主たる債務者の抗弁を民訴法上援用出来るとする規定はないのであるから、原決定によれば相殺、時効、同時履行の各抗弁の援用も否定されなければならないが、その様なことは原決定の裁判官も認めないところであろう。

(三) 原決定は、仮に提出を求める文書(手形割引依頼書、割引手形の写し、普通預金払戻請求書、普通預金口座元帳)が主たる債務者にとつて民訴法三一二条三号の文書に当るとしても、即、保証人にとつても同条同号の利益文書、法律関係文書になるものではないとする。

これは保証人の立場を理解していないものである。

主たる債務者が債権者に主張できる事を保証人もできることは既に述べた様に明らかなのである。その結果として主たる債務者に文書提出命令が認められるのであれば保証人にも同じく認められなければならないのである。

八 証拠収集についての他の民訴法の規定、また真実発見の為の法律制度と比較しても原決定は誤つている。

(一) 一般人が何故証人として紛争の解決に協力する義務(民訴法二七一条)を負うか、それは裁判所の公平な判断には関連する証拠の提出されることが必要だからである。

民訴法三一二条もこの一般人の証人としての協力義務と趣旨を同じくするもので、証拠方法がたまたま文書であるに過ぎない。

(二) 証人に対する刑罰の制裁(民訴法二七七ないし二七八条、刑法一六九条)は、文書所持者が裁判所に提出しない場合の制裁(民訴法三一六条)と同じく、公平な判断を妨げてはならないとする趣旨より来ているものである。

(三) 時機に遅れた証拠の却下(民訴法一三九条一項)も公平の観念と関連している。

(四) 刑法には証拠湮滅罪(刑法一〇四条)があるが、この犯罪において湮滅の対象となる証拠は共犯者に関する証拠、状況証拠、刑の重減免に関する証拠、情状に関する証拠をも含むとされるが(団藤刑法各論・法律学全集四七頁)、これの刑事司法作用を侵害法益とする(同書四一頁)。

立証事項に関連性があり、かつ重要性のある証拠が全て、裁判官の判断の資料に供されねば真実の発見、正義の実現を目的とする司法作用の目的実現は出来ないのである。

(五) 利益追求を目的とする株式会社に於てすら会社内部の情況を株主に知らせなければならない。

他人の金員を預かる金融機関に人に疑われる様な行為があつてはならないのである。

相手方が貸しつけたと称する会社(山王興業)が実態のない会社であり、しかもその会社の代表印を相手方の従業員が使用して欺罔行為、或いは領得行為をしたと非難されているのに重要証拠を裁判官に相手方が見せる必要がないと弁解するのは自らの従業員の不正行為を認めたに等しい。

別紙

提出文書目録

一 貸出稟議書及びその付属書類

相手方が申立外山王興業株式会社(商号変更前は山王工業株式会社以下「申立外会社」という。)に対して貸付けをした際の貸出稟議書のうち、昭和五三年八月一七日付及び昭和五四年六月一日付のもの(甲第一二号証の九、同号証の四)を除くすべてのもの並びに次の付属書類

イ 申立外会社の決算報告書のうち、甲第一二号証の一、二のものを除く全部

ロ その他稟議書に付属する文書のうち、乙第一六号証の一(届出事項変更届)、同号証の二(印鑑証明書)、同号証の三(商業登記簿謄本)同第一七号証(改印届)を除く全てのもの。

二 手形割引依頼書、割引手形の写

申立外会社が相手方に手形割引を依頼した際作成した手形割引依頼書全部と割引した手形の写全部。

三 申立外会社作成名義の普通預金払戻請求書(七〇通)全部。申立外会社の普通預金口座元帳で口座開設時から現在に至るまでのもの。

四 申立外会社が相手方の組合員になつたことを示す文書。

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